島根の風土
島根の自然は美しく、豊饒である。その魅力は豊かな歴史と共に、四季折々の景観や様々な海、山の幸にある。こうした豊かさば変化に富む風土地勢によって育まれる。島根の地勢は様々な顔をもつ。それは陸と海、山と川の厳しいせめぎあいの中で形づくられたものだ。日本海に沿って、島根の海岸線は驚くはど長い。隠岐島を含めると、恐らく1,000キロを超えるだろう。
隠岐や島根半島あたりでは山が海に迫り、複雑な地勢を形成する。入りくんだ入江や荒磯が豊富で美味な海の幸を育む。人々の暮らしも日本海とのかかわりが深く、島根は海の国ということが出来る。
島根の県土の八割は山地が占めている。中国山地の唆しい山々は石見あたりで日本海に迫る。江の川など数条の清流は僅か四〇キロ余りの急峻を渓谷を刻みながら日本海に注ぐ。流域至るところ深山幽谷があり、様々な渓流魚や山菜がふんだんに採れる。島根は山と清流の国でもある。
出雲神話で有名な斐伊川は宍道湖に流入し、中海を経て日本海に注ぐ。宍道湖は、夕景と共に、日本海の潮が差し込む汽水湖としても有名だ。この二つの湖はとりわけ美味な魚介の宝庫である。島根は湖と内海の国ともいえる。このように、多彩な顔をもつ島根の風土地勢がバラエティに富む味覚を産み出すのである。しかも山陰の季節のうつろいは画然としており、四季折々の気象の変化が更に豊かな風味を添える。ここではまだ旬が生きているのである。
豊饒の湖宍道湖のほとりに松江がある。ここは近世の大名茶人松平不昧の城下町だ。不昧の茶道文化は陶器、漆器などの工芸と共に、松江に豊かな食文化を発達させた。和菓子をはじめ、質の高い様々な味覚が、豊富な日本海や宍道湖の魚介をとりこんだ郷土料理と共に、今も松江の名物として、訪れる人々を楽しませている。
出雲の味覚
宍道湖岸に釣糸をたれるとゴズ(ハゼ)がかかる。少し面倒でも開いててんぷらやフライにして揚げるととてもおいしい。浅瀬の岩のすき間に手を入れて探るとシジミがとれる。砂を吐かせて翌朝にはおいしいシジミ汁がいただける。初夏、暗くなった湖に出かけて網をかけるとモロゲエビがかかる。この煮付けもおいしいが、かき揚げも絶品だ。シラウオもアマサギ(ワカサギ)も冬になると家庭の食卓にのる。
鮮やかな赤紫色の津田カブ、これは菜の方もおいしい。細かく刻んで熱々のご飯に混ぜる菜飯。熱々ご飯といえばあぶりワカメをもんでご飯に掛けるメノハ飯。赤貝を主にして里芋、ゴボウ、ニンジン、白菜などを煮込んで葛を引いたのがのっペ汁。煮なますは野菜にコンニャクを入れ、煮込んだところへ酢を入れたもの。ともに寒い冬、熱いうちに食べる庶民の味である。
奥出雲の家庭に欠かせないのが手作りのみそと漬物。ここには伝統の味が染み込んでいる。そしてワラビ、タケノコ、ウド、ゼンマイ等などの山菜料理は、農山村ならではのぜいたくな味覚である。
石見の味覚
石見の味には二つの顔がある。一つは日本海の幸、もう一つは中国山地に抱かれた山と里と川の恵みから生まれる味覚である。新鮮なサバで作るサバずし。これに似せて作ったおまんずし。ともに新鮮なうちに食べるのがこつ。サバにイワシ、フグにアンコウ、水揚げされたばかりのものを刺身、鍋物、煮付け、塩漬けなどに料理できるのも港が近い所ではのこと。
盆地や山沿いの地方には野菜、山菜を使った料理が伝わっている。うずめ飯や芋煮のはかには、高菜の古漬けで熱いご飯を握って包んだ目張りずし、長方形や花形に抜いた押しずし、コンニャクの田楽焼き、豆腐をうどんのように細長く切ってショウガ、ノリなどを入れたすまし汁にして葛を引いたうどん豆腐などがある。
そして忘れられないのが清流に棲むアユの料理である。アユずしのはかに、アユの内蔵を加工したアユうるか、保存食としてのアユのあぶり(焼きアユともいう)なども山地ならではの味がある。
隠岐の味覚
新鮮でピチビチしたとれたてのイカを素早くさばいて、そうめんのようにして食べるイカそうめんは、隠岐ならではの醍醐味である。隠岐では自分の家で船を持っているところが多い。漁を職業としていなくても海がそこにあるから、船を操って沖へ出て魚、員、海藻をとるのである。遠来の客が訪れると家の主人は早速出かけていく。その日はとれたての魚が食卓に並ぶ。アワビ、サザエもすぐ手に入る。刺身はもちろんのこと、ご飯に炊き込んだ味は抜群である。隠岐の近海はタイもよく釣れ、塩焼きが一番である。そしてイカの干したものでは生干しのものが一級品だろう。漁獲量の多いイワシは脂がのって刺身で食べるのが逸品である。
隠岐の家庭ではメカブを千切りにして乾燥させ保存している。これは熱湯をくぐらせると柔らかくなり、汁に入れたり、しようゆを掛けたりして食べる。固いするめとサンシヨウ、ワカメの茎、ニンジンの千切りをしょうゆで味付けしたサンシヨウ漬け、するめのこうじ漬け、こじょうゆみその漬物、いずれも年期の入った素朴な隠岐の味である。