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●宍道湖七珍甘露煮
夕景で有名な宍道湖は、日本海の潮が深く差し込む汽水湖としても知られている。海水と淡水の入りまじる湖の魚介の味は格別だし、種類も多い。ここは、正に豊饒の湖といえる。 宍道湖のヤマトシジミは味も漁獲量も日本一だ。地元の漁師が"シジミが湧く"と表現するほど無尽蔵にとれる。熱いシジミの味噌汁の一杯はこの湖の豊饒さを思い知らせてくれる。シラウオやアマサギ(ワカサギ)も気品のある滋味に溢れている。
本当の宍道湖の美味を満喫するには、冬場の旬に、松江を訪れるしかないけれど、シジミやシラウオ、アマサギの甘露煮にはなかなかいいものがある。この湖のすぐれものの片鱗を、家庭に持ち帰ることが出来るのはありがたい。
シジミの甘露煮をふんだんにちらした"大和しじみのもぐり寿司"は近頃、格別人気がある。有名デパートで行われる全国駅弁大会では、常にベストテンにはいるという。
●あご野焼と厚焼
五月頃から、日本海をトビウオ(あご)が産卵のために北上する。この季節、豊富にとれるトビウオの新鮮なすり身を、金ぐしに筒状に塗りつけ、炭火で香ばしく焼き上げたものが野焼。
野焼は製法から云えば竹輪に似ているが、魚の中でも味の濃厚なトビウオを使っているし、酒を加えた調味料に秘伝があり、加工品というよりは、料理に近い感じのものである。
野焼は焼きたてを手でちぎって食べるのが良いが、滋味のあるあごの身に練り込まれた酒気が口中に広がり、思いの外、瑞々しい。かまぼこなどの加工品と異なる、生鮮な味覚であることがよくわかる。昨今、冷蔵されたすり身で、年中焼かれているが、やはり、旬の五、六月の放卵前の頃が最もよい。このあごのすり身に、卵をたっぷり加えて焼きあげた「厚焼」の甘味のある、重厚なうまさも格別だし、す巻きにして、蒸しあげた「すとかまぽこ」も捨て難い。
●めのは(板わかめ)
春先に葉を広げた新ワカメのことを、出雲では「めのは」と呼んでいる。「めのは」は、島根の日本海沿岸一帯で、刈り取られ、それぞれの浜で、水洗いして、板状に干し上げられる。
ゆるい遠火で軽くあぶり、熱いご飯に、手でもんで、まぶして食べる。ほのかな塩気と春の海の潮の香に思わず箸が進む。
近年、養殖が盛んで、年末には、市場にでまわり、思わず旬を忘れさせる。三月に入ると天然ワカメの刈り取りが始まる。やや肉質が厚く、葉脈も強いが、かみしめると濃密な滋味がある。好みにもよるが、やはり、天然ものに軍配をあげたい。県内各地の浦で採れるが、片句浦のが甘塩で、一段と勝っているように思える。
●十六島ノリ
平田市のはずれ、日本海の荒磯、十六島の岩礁でとれる天然の岩ノリは「出雲国風土記」や、江戸時代の松江藩諸国献上品の控えでも逸品としてあげられている。
板状に干したものは黒紫色で、光沢があり、強い磯の香が漂う。遠火であぶれば、淡緑色に色づき、その風味は格別だ。また、半生でしぼったものを"かもじのり"と云う。出雲地方の正月には、このかもじのりを酒でとき、雑煮の上にのせて食する。出雲の初春には欠かせぬものだ。
最盛期は一月中旬の厳寒の頃で、干潮を見計らって、手作業で、岩礁から剥ぎとる。凪ぐことの少ない冬の日本海の荒波を避けながらの、命がけの作業となる。全く天然自生にたよっているので、近年、収穫が少なく、高価なのはやむをえないが、野味溢れる逸品といえる。
●隠岐粒ウニ
ねっとりした濃密な舌ざわり、口中にむせる様な磯の香が広がって、熱々の炊きたての御飯にもよし、そのまま、酒の肴にしても最高といえる。
日本海に浮ぶ隠岐の島は荒磯に囲まれている。アワビ、サザエ、ウニなど海の幸の宝庫だ。山陰のウニは小粒だが、味は繊細で海の幸の醍醐味を充分味わうことが出来る。
隠岐のウニは、塩ウニ、粒ウニ、練りウニなどがあり、丁寧な扱いで、手早く塩加工して、瓶詰にする。はろはろと粒が固形になっているのがよい。ウニは島根の荒磯ではどこでもとれる。加工する場所によって微妙に味わいが異なり、それぞれに持ち味があるが、隠岐の粒ウニが有名だ。
●海藻漬
暖流と寒流が行き交う隠岐島近海では、海藻類も種頬が豊富である。海藻漬は長期間保存が可能な素朴な海の香りの漬物。
神馬草という海藻を軽く天日に干し、ニンジンや大根などの野菜とともに隠岐に古くから伝わる「こじょうゆみそ」に漬け込んだもの。海藻と味噌の味がマッチしておいしい。ご飯に添えて食べると、海の香りがパーッと広がる。
ミネラル、ビタミン等を多く含み、コレステロール濃度を低下させる自然食品として注目され始めている。体によいこと請け合いの保存食品である。
●イカのおどり漬・ショウガ漬・かす漬
「おどり漬」はとれたてのイカを船上でしょうゆ、みりん等を合わせた特有のたれに丸ごと漬け込んだ珍味で、生きたままのイカにたれが染み込み柔らかくて美味。
「ショウガ漬」はおどり漬同様に捕れたてのイカを船上で特有のたれとショウガに丸ごと漬け込んだもの。ショウガの味と香りがイカによく合う。
「かす漬」はイカの胴に細かく刻んだ足とキャベツ、白菜などの野菜を混ぜて詰め、酒かすに漬け込んだもの。
いずれも酒の肴にピックリの味わいで人気がある。隠岐島近海で豊富にとれる新鮮なイカを素朴な方法で調理した隠岐の名産である。
●鮎うるかと山葵漬
石見は山と清流の国である。中国山地の山々はこの石見あたりで、日本海に迫る。
江の川、高津川、匹見川など中国山地に源を発する清流は、僅か六〇キロ余りの距離を、山を削り、岩をうがち、一気に日本海に注ぐ。流域至るところに景勝の地があり、アユ、ヤマメなどの渓流釣りが盛んだ。
石見の国の自慢は豊富で、味のよいアユからつくる"うるか" といえる。わたのみでつくる"苦うるか"は気品のあるほろにがさ、清々しい苔の香が食欲をそそる。真子、白子を併せて塩漬にした"子うるか"は贅沢な味覚だ。ねっとりと甘く、こくのあるうまみはご飯によし、細造りにしたイカなどにあえてもよい。
日原町や匹見町周辺の渓流にはワサビ田が多い。ここのワサビは全国でも最高級の折り紙がつけられている。新鮮なワサビを葉を共に漬け込んだ醤油漬がよい。清例な香気と素朴な味わいに山の精気が存分に込められている。
●磯魚一夜干し
秋から冬にかけて島根の海は猛々しい表情をみせるが、内には豊鏡な自然の恵みをいっぱいに秘めている。松葉ガニ、寒ブリは冬の味覚の王者だし、春のタイは身も味も引き締まり、内海ものとは一味違う。夏ともなれば、小ぶりながら透明で柔らかく、上品な甘味に満ちている白イカ漁の最盛期となる。沖を彩るイカ船の漁火は夏の日本海の風物詩となっている。
対馬海流に洗われる島根沿岸は四季折々の豊富な海の幸に溢れているが、厳しい日本海の荒波にもまれて育つ磯魚たちも捨て難いものがある。白イカーカレイ、フグ、カマス、サヨリ、アマダイなど枚挙にいとまがないが、それぞれ個性のある味覚が楽しめる。
こうした磯魚の繊細な滋味を味わうには、ひと塩もの、一夜干しにつきる。限りなく鮮魚に近いけれど、濃縮されたコクのあるうまさがぶりぷりした肉にみなぎっている。白イカ、フグ、水力レイが特によく、小伊津沖のアマダイともなれば、若狭ものに劣らぬ逸品といえる。地味ながら、おすすめの美味である。
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