【石州和紙のすべて】
田園風景が広がる島根県石見地方の三隅町古市場。ひっそりとたたずむ工房で、石州和紙の職人・久保田保一さん(七八)が巧みにけたを操り、一枚ずつ紙をすいていく。同町では、紙すきの技法が石見地方に伝わったとされる約千三百年前から、職人たちがその伝統的な技術を受け継ぎ、和紙を作り続けてきた。
すき上がった紙は、やや黄緑色。原料となるコウゾの皮を削る際、内側の緑色の甘皮も使うためで、甘皮に含まれる繊維質が水に強い光沢のある紙を生みだす。「薬品など化学的な処理をした紙は変色して長持ちしないが、これは時間がたつと白くなって、そのまま変色しない」と久保田さん。昔ながらの技法で生み出された和紙は、全国の書家や画家の元に届けられる。
石州和紙が長年、途絶えることなく、息づいてきたのは、和紙作りに適した良質の水があったからと言われる。石見地方は地盤に石灰岩がなく、紙を変色させる原因となるカルシウムイオンや、マグネシウムイオンを含まない軟水が豊富にある。「年間を通して水質の変化がなく、質の変わらない紙を作ることができる」と、久保田さんは強調する。美都町や弥栄村などで盛んに栽培されるコウゾは軟水がはぐくんだ産物。大田市などで採れるミツマタは、紙幣にも使われる。人間国宝の故・安部榮四郎氏も「石州には日本一の原料がある」と称した。
石州和紙を使う全国の書家からも「墨にも同じ水を使いたい」と注文があり、飲料水として求める人をはじめ、中には、じんましんの治療に和紙をせんじて飲む人も。近年の癒やし系ブームとも相まって、和紙は住宅の内装やインテリアなど、用途が広がっている。自然の優しさを求めて、装飾用の柿渋染めの紙や、照明用の透かし入り和紙などの注文も増えた。
同町では1975年に米国から訪れた奨学生に技術指導したのを皮切りに、86年からはブータンに技術支援を行うなど、海外とも積極的な交流を進める。世界各地で紙すきの実演を行うなど評価を高め、評判を聞き付けた英国・大英博物館の学芸員が「歴史書の修復に和紙を使いたい」と、久保田さんの元を訪れたことも。
「陶芸のように完成品を作るのとは違い、和紙は使う人が加工して価値が判断される。それぞれの要望に合わせて、手作りでしかできないものを作っていきたい」。無限の広がりを見せる和紙。久保田さんの情熱は衰えない。(山陰中央新報2002/12/12掲載より)
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